つれづれネタ帳

プロットっぽい何か。

LiberateEve プロローグ

 

 プロットみたいなもの。

ネームの段階でまどろっこしい部分は消えたんだった。

完成した漫画と見比べるのもまた一興かもしれない。

 

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第0夜 プロローグ


夜、ぼんやりと月明かりが街を照らす。
そんな路地裏で、赤黒い液体がパタパタと滴り落ちる。
…血だ。

男が一人、息を荒げ片腕を抑えて少しふらつきながら歩く。シャツは薄汚れて所々ほつろけおり、滲んだ血が腕の一部を黒く染め上げていた。道端の血はどうやらこの男のものだ。

男はトンッと背中を壁につけ、暫し荒い息を整える。

遠くで人の声がする。

それに気付いた男は、急いで服の一部を破り、腕に巻きつけ縛った。焦るように速度を増して再び歩き出す。

古びた門を見つけ、少し強引に開くと中に滑り込んだ。
その時、パキンッと門の中央の小さな装飾品にヒビが入る。

月明かりを頼りに奥へと進む男。どうやらここは教会。その裏手のようだ。
少し顔をしかめる。

( よりによって…
けれど 灯台下暗し かえって見つからないかもしれない )

男は周囲に誰もいないことを確認し、そのまま教会の中へと足を踏み入れた。

いくつかの蝋燭が灯るだけの暗い教会の中、一番最前列のイスまで辿り着いた男は、ひと休みと言わんばかりにドサッとそこに横たわった。

「はあ…」

その時、月の光が一筋男に降り注ぐ。
その明るさに、横たわったまま腕で額を覆っていた男は、腕をずらしてぼんやりと上へと視線を向ける。
そこには、月の光を通してステンドグラスから優しく微笑む乙女が描かれていた。

男の横顔に一筋の光が流れる。

(あー…やっぱダメかあ…
俺の方が耐えられそうにない )

男は上半身を起こすと、片手で額を掴む。苦しげに歯をくいしばる。

ふらりと立ち上がり、再び外へと出て行く。途中、血が足りないのかフラつきイスにガンッと当たって小さく音が鳴る。

その物音にちょうど廊下を歩いていた誰かが意識を向けた。

「?」

教会の外へと出た男は、敷地内を歩き物置小屋を見つけると、小屋には入らずその裏手へと周り、落ち葉のクッションの上に腰を落ち着ける。
そのまま静かに瞳を閉じた。

……間も無く夜が明けようとしていた。




「蝋燭が落ちたのかも…」

教会の中、先程廊下を歩いていた人物がそうひとりごちる。
襟の立った黒い礼装に身を包む彼はしかし、とても若い。まだあどけなさの残る少年でもあった。

蝋燭が倒れていないのを確認し安堵する少年。

「よかった」

ふいに外を眺める。

「…ルクス神父 無事だといいけど」


ルクス神父は、真夜中に呼び出され何処かへと出かけて行った。

「それではアイザック 留守を頼みます」
「はい お任せを 道中お気をつけて」

部屋に戻った少年は、温めた湯をカップに注ぐ。
机の上の新聞の見出しには『 ゴーストレディ 再び現る 奪われる魂!! 』と大文字で書かれ教会の写真が載っている。

「(…また事件が起きたのかもしれない)」

今回もきっとその手の緊急の呼び出しなのだろう。
神父がいない間、留守を任されるのは神父見習いのこの少年アイザックであった。

アイザックは、窓の向こう、東の空に日が昇るのを眺めながら、飲み物を一口、口に運んだ。



その時、
朝日に照らされて物置小屋の後ろで、キラリと何かが光る。

「? なんだろう?」

よく見るとそこには、薄くて綺麗な朝焼け色の髪の男がいた。
服の腕の部分に血が滲んでいるのを見ると怪我をしているのがわかる。

「人だ!怪我をしてる!!」

慌ててそこへ向かうもそこには誰もいない。

「あれ? ……あの!どなたかいらっしゃいませんか?………」

特に返事はなく、そこには朝の静寂だけが広がっていた。
少年は踵を返し、建物の中へと足早に戻って行った。


物置小屋のあるすぐ横、教会の屋根の上、仰向けに倒れ短く息継ぎをしている男。

「…はっ…はぁ…!」

(…まずい 見られた 追っ手がかかる前に …逃げ…いと…あー…クソッ血が足りない! )


その時、再び建物の扉が開く音がする。
警戒して聞き耳を立てる男。
先程の少年が何かを抱えている。
少年は、小屋の裏手から少しずれた所に転がる少し大きめのブロックを持ってくると汚れを払い、その上に何かを置き、再び建物の中へと入って行った。

しばらく様子を伺うも出てくる気配はない。窓辺にも誰かがいる様子は確認出来なかった。十分に安全を確認し、男はそっと小屋の屋根へと移る。
上から先程の少年が置いて行ったものを見やる。
そこには、パンが蓋がわりに乗せられたスープと包帯、傷薬らしきものが置いてあった。

「…………」


その日から毎日、アイザックは早朝、食事と薬をそこへ運んだ。
最初のうちは手もつけられていなかった食事も、徐々にパンが減り、スープが減り、包帯が減り、そして今日は薬が減っていた。

少し安堵した様子で穏やかに微笑むアイザック

屋根の上ではどこからか盗んできたであろう布団にくるまって男が寝息を立てている。


しばらくの間、
2人の奇妙な交流は続いた。



そんなある日の夜、
嫌な胸騒ぎにハッと眼を覚ます男。

「………?」

ようやく昇り始めた低い位置の欠けた月が、雲で少しずつ覆われてゆく。


そんな時、教会の中では、ルクス神父が燃え尽きた蝋燭を取り替えていた。

ふと、気配を感じ、後ろを振り返る。
と、誰かが背を向け立っている。

「? こんばんは」

神父はそう、誰かに語りかける。
この時間はまだ誰かが訪れる事も稀にだがあるからだ。

ゆっくりと、その誰かが振り返る。
そこにはぼんやりと虚げに青い光を灯すランプを持って立つ、ゴーストレディ、シスター・マリーがいた。

「 っ ( シスター・マリー!!)」

その様相から、連日の事件が頭をよぎる神父。

( ここは結界で強化された聖域…!だのにどうして…!? )

気付くと彼女は神父の目の前にいた。
何か語りかけようと口を動かすゴーストレディ。

ところがその時、間に入って神父を突き飛ばす者がいた。


「ッ!!逃げて!!」

「ザック!!?」


ゴーストレディは手を伸ばす。
睨みつけるアイザックの頬に両手で触れる。目と目が合う。
金縛りにあったように動けないアイザック
ゴーストレディが語りかける。

「…ル …わ …が …っと ……に… から… だ… … うか…
も う … 泣 か な… で 」

「!?」

自分のものではない誰かの感情が流れ込んで来る。
ぬくもりを感じる一方で、どうしようもない悲しみを感じて、アイザックの目からはぼろぼろと意味もわからず涙が溢れた。
徐々に気が遠くなっていく。

「…ザック!……アイザック!!」


遠くでルクス神父に名を呼ばれたような気がした。

その時、誰かが素早く走る。
その手がアイザックへ向けて伸びる。
瞬間、その指先の指輪が光を反射した。


「 そいつを放せ 」


ふいに、体が後ろに浮遊する感覚。

…違う。後ろに引っ張られた…?

朦朧とした意識の中で、視界にあの綺麗な髪の男が映る。

蝋燭のわずかな明かりに照らされて反射する薄い朝焼け色の髪を目にしながらアイザックは、意識を手放した。


男はアイザックを横たえながら近づこうとするマリーを牽制する。

「来るな」

哀しそうな顔をしたかと思うと、フッと消えてしまうゴーストレディ。

アイザック…!」

そして、アイザックに駆け寄る神父を前に、男は静かにしかし足早にその場から立ち去った。

「(まだ息はある!)よかった…!
助けてくれてありがとう 貴方は無事で…? あれ?」

神父が視線を向けるも、既に男は立ち去った後だった。




「………ん」

目を覚ます。
見慣れた天井がそこにある。
けれど、瞼を開けるにも、上半身を起こすのにも、体がひどく重い。
全身が筋肉痛になる程、自分は何か運動をしただろうか…。
まだ覚醒していない頭でそんなことを思う。すると、部屋を通りかかった女性が気付き、踵を返して走り出す。

「神父!ルクス神父!!」

するとすぐさま部屋に駆け込んでアイザックを抱きしめる神父。

アイザック!!ああ!ザック!よかった!!目が覚めて!本当にっ」

感極まり泣きそうな顔の神父。
抱きしめられる感覚に意識が完全に覚醒したアイザックは目を見開く。

「!!
ルクス神父!ご無事でしたか!よかった! ……あれ?えと 僕は…」

「昨夜 ゴーストレディ
シスター・マリーが現れた
彼女は人の魂を奪う
君は私の身代わりに恐らく魂を一部なりとも奪われているはず…
すまない 私の手落ちだ ゴーストの侵入を許すなど…」

「!ルクス神父の所為ではありません!あれは自分がっ」

「それだけではないんだ」

「え?」

その時、ミシミシと床を軋ませて大きな巨漢の男が部屋に入ってくる。

「やや お目覚めですかな?セイリオス様 ご無事で何よりです」

「……あ…貴方は たしか…」

「!覚えておいででしたか
洗礼の儀で一度お会いしましたな
こうしてお話するのは 初めてになります
申し遅れました 私 ビブリオテカのアルコフリバス・C・ラブレーと申します」

「ビブリオテカ?」

アイザックが不思議そうにしていると、やや苦しげな表情でルクス神父が口を開く。

「ゴーストレディの件や教会が表立って動けない事案を担当する裏の組織
それがビブリオテカだ」

一方でにこやかに話すラブレー

「世間では存在が真偽不明とされますが 事実 ルクス君は組織の一員です
そして彼の役目は 貴方様を守り導くこと」

「…え?」

ルクス神父は一層表情を厳しくして重々しく口を開く。

アイザック 君はこれから組織の監視下に置かれ保護されることになる」

「!?」

「すまない 私がいながら君を守りきることが出来なかった…!」

片手で顔を覆うルクスの肩に手を置き、ラブレーがたしなめる。

「此度の件は 君だけの責任ではありません 結界の破損などこちらにも非はあった 顔を上げなさい セイ様をあまり困らせないように」

「…はい」

悔しそうな顔のルクス神父を尻目にアイザックの方へと向き直るラブレー

「どうですかな?出向にはルクス君も同行致します」

「………わかりました それが今の僕に出来ることなら」

微笑むラブレー

「それでは 明朝に出立を
パトライ殿 よいですかな?」

「うん 半分失ってもまだ輝きが強い さすがは“名を継ぐ者”だね」

「?(名を継ぐ…?)」

部屋を出て行ったラブレーとパトライ

暫しの静寂が部屋に残された2人の間に流れる。
先に口を開いたのはアイザックだった。

「なぜラブレー氏は 僕のことをセイリオス様と?それにルクス神父の役目とは一体」

「その話は本部についてからにしよう
…今日は疲れたろう?せめてゆっくり休んで明日に備えよう」

部屋を出て行こうとする神父を呼び止めるアイザック

「あの!ルクス神父!
例えどんな理由があろうと
僕はあの時 師の前に立てたことを誇りに思います」

少し泣きそうな顔で笑顔を浮かべるルクス神父。

「…ありがとう 」

「あ」

「?」

「そういえば あの時 誰か他にいませんでしたか?」

「ああ 君をマリーから引き離してくれた人がいた けれど 気付いた時には 立ち去っていたんだ」

「そうでしたか」

「探しておくよ ザックを助けてくれたお礼を言わなければね」

「ありがとうございます」

「それじゃあ おやすみ」

「おやすみ」

一人になった部屋でアイザックは窓の外に目を向ける。月が高い位置に昇ろうとしていた。

「……あの人は無事だったかな?傷が悪化してないといいけど…」

重く軋む体を横たえて布団に潜り込む。

「……また 会えるかな?
…会えるといいな…」

そうして夜は更けていく。
橋の下で指輪のはめた手を掴んで震えひどく何かに怯えている男を残して。

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↓ 第一夜ep1-1 へ続く。


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0話後の修正部分↓
〜ミハイルが教会に入り込み、椅子に寝転んでいる辺りから。〜

 


誰もいないのを確認しつつ教会内部へと向かう青年。

その時、二階で何かに気付く神父。

椅子に寝転び、苦痛に顔を歪め身体を起こす青年。
するとそこには蝋燭を持って立つ神父がいた。
「!!」
「わっ!」
お互いに驚く。
同時に神父が青年の怪我に気付く。

「!血が!?あの!奥に薬がありますから」
「いらない」

青年はバッサリと切り捨てる。
しかしこういうのは子供の扱いで慣れていたアイザック
青年の背後に回ると片手で器用にぐいぐいと押していく。

「だめです。怪我はほっておくと怖いんですからっ」

拍子抜けした青年は嫌そうな顔をしつつも押し切られた。

食堂らしき場所で、腕まくりをした腕に綺麗に包帯を巻かれた腕を見ながら何か考えている青年。

ふと 机の上の新聞に目がいく。
しかし字は読めないので写真を見る。
「…こいつ…」

その時、再び扉の開く音がする。
警戒してそちらを見やる青年。

少し安堵した様子で穏やかに微笑むアイザック

「よかった まだ居て下さって
さあ その血で汚れた服を着替えてしまいましょう!」

ガタンッと壁にへばり付く男。

「いらない 絶対 いらない」

「? あ サイズならもう一人の神父の物ですし大丈夫かと」

その光景に青年の頭の中に
突然、何か映像が頭の中にフラッシュバックする。
(修道女が笑ってシャツを持っている)
突然、血相を変えて怒り出す青年。

「ッ!俺は神父もましてや修道女は大っ嫌いだ!!」

そう叫ぶと外へ飛び出していく。
長髪で隠れた奥で瞳が揺れていた。

「えっ!あっ!?ま 待って!!」

飛び出したものの誰かに呼ばれた気がしてバッと振り返る。
(…今 あれの声がした…?)
「チッ…またか!いつまでもつきまといやがって!!」



そんな時、教会の中では、もう一人の神父が燃え尽きた蝋燭を取り替えていた。

ふと、気配を感じ、後ろを振り返る。
と、誰かが背を向け立っている。

「? こんばんは」

神父はそう、誰かに語りかける。
この時間はまだ誰かが訪れる事も稀にだがあるからだ。

ゆっくりと、その誰かが振り返る。
そこにはぼんやりと虚げに青い光を灯すランプを持って立つ、ゴーストレディ、シスター・マリーがいた。

「 っ ( シスター・マリー!!)」

その様相から、連日の事件が頭をよぎる神父。

( ここは結界で強化された聖域…!だのにどうして…!? )

気付くと彼女は神父の目の前にいた。
何か語りかけようと口を動かすゴーストレディ。

「そいつから離れろ!!」
見知らぬ青年が叫ぶ。
「!?」
そのすぐ脇を走り出すアイザック
「あっ おい!」
隙を突かれた青年は驚く。

アイザックは間に入ってルクスを突き飛ばした。

「ッ!!逃げて!!」

「ザック!!?」

ゴーストレディは手を伸ばす。
睨みつけるアイザックの頬に両手で触れる。目と目が合う。
金縛りにあったように動けないアイザック
ゴーストレディが語りかける。

「… …わ …が …っと ……に… から… だ… … うか…
も う … 泣 か な… で 」

「!?」

自分のものではない誰かの感情が流れ込んで来る。
ぬくもりを感じる一方で、どうしようもない悲しみを感じて、アイザックの目からはぼろぼろと意味もわからず涙が溢れた。
徐々に気が遠くなっていく。

つかつかと青年が歩き近づくと
その手がアイザックへ向けて伸びる。
瞬間、その指先の指輪が光を反射していた。
ふいに、体が後ろに浮遊する感覚。


「 失せろ 」
そう、青年は幽霊に言い放つ。

朦朧とする意識、アイザックはそのまま意識を手放した。




「………ん」

目を覚ます。

●ここからしばらくは内容変わらず。以下から変更有り。

「そういえば あの人はどこに…?」

「ああ 君を助けてくれた人だね 」

◆変更点。ここに「助かりました〜あなたは…いない」が入る。

「気付いた時には もういなくて 見失ってしまった…」

「そうでしたか」

「探しておくよ ザックを助けてくれたお礼を言わなければね」

「ありがとうございます」

「それじゃあ おやすみ」

「おやすみなさい」

一人になった部屋でアイザックは窓の外に目を向ける。月が高い位置に昇ろうとしていた。

「……名前 聞きそびれちゃったな…」

重く軋む体を横たえて布団に潜り込む。

「……また 会えるかな?
…会えるといいな…」

そうして夜は更けていく。
橋の下で指輪のはめた手を掴んで震えひどく何かに怯えている男を残して。

 

 

 ↓ 第一夜ep1-1 へ続く。

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